台北特別編の2つ目。
台北市内の東寄り、饒河街観光夜市に向かう八德路。台北小巨蛋の近くに、中崙市場というフードコート形式のグルメスポットがある。
ここは以前はバラックのような屋根だけの簡素な屋台街だった。それが、いまでは隣にできた阿樹國際飯店の中に収まっている。
なんでも、台北で初めてのBOT方式による市場になったとのこと。BOT方式は、民間資本が公共施設を建設し、管理・運営する形式。
中崙市場は台北に住んでいたころに一度だけ行ったことがある。当時はまだ古い方の市場だった。そこで食べたのが「貓耳朵」だ。
中国式ショートパスタ「貓耳朵」
貓耳朵はその名前と存在だけは知っていた。小林信彦のギャグ小説『ドジリーヌ姫の優雅な冒険』に、中華街の古老が主人公に貓耳朵の作り方を教えるシーンがあったのだ。
しかし実物を口にするのはそれを読んでから30年ほど経ってからになる。
百度には、貓耳朵にまつわる伝説のようなものが書いてあった。
“乾隆帝が江南に行幸されたおり、小舟にのって西湖の景観を楽しまれた。しかし突然雨が降り出し、一行は船室にこもってやりすごそうとした(屋形船のような船だったと思われる)。
ところが雨はどんどん強くなり、やみそうにない。岸までこぎつけることもできない中、皇帝は空腹を覚えて船頭になにか食べるものはないかと問われた。
船頭が言うには、小麦粉はあるが麺棒がないので麺がつくれないという。
そこに船頭の娘が来て、小麦粉を練って小さな麺を作り出した。
湖でとった魚やエビと煮て差し上げると、乾隆帝はそのおいしさを気に入られた。
その麺がまるで猫の耳のようだったので貓耳朵と名付け、帰京後はその娘を京都に召し出して貓耳朵を作らせたという。”
いやまあ実話ではないだろう。麺棒がないから麺が作れませんと言い出すのもおかしな話だし。
しかしまあ、ともあれ貓耳朵は刀削麺など数多くの麺料理のふるさとである山西省の麺の一つで、中国式のスイトン「麵疙瘩」の一種だ。
台北で唯一?の貓耳朵専門店
貓耳朵が台湾に伝わったのは戦後だろう。
ただ、伝わったといっても小籠包や生煎包のように広く普及しているわけではない。
自分が知る限り、台北で貓耳朵を売っているのは中崙市場のこの店だけだ。
メニュー。一番安い椒麻辣醬貓耳麵を選んだ。
中で食べる客の他、まとめて持ち帰りやウーバーイーツ的な配送ネットサービスでの注文もあるようで、できるまでけっこう待たされた。
椒麻辣醬貓耳麵。ネコ耳といってもたれ耳のスコティッシュフォールド的な耳。
たれとよくからめて食べる。
メニュー表には唐辛子マークが3つついていたが、実際は0.5辛といったところ。麻はほとんど感じない。
台湾人は花椒の麻があまり好きではないのか、麻辣と名のついた料理を食べても麻を感じる店はほとんどない。永康街の近くに、店の外にまで花椒の香りをプンプンさせていた担々麺の店があったがそこはこの前行ったらつぶれていた。
小さくまるまった麺にたれがよく絡んで、独特の歯ごたえがありうまい。
この店ならどの味付けのものを食べてもうまいのではないかと思う。